就任挨拶 (抜粋)
北海道函館市で修行していた時の話です。
私が修行しておりましたのは函館市湯川町という湯川温泉で有名な観光地にあるお寺でした。
住まいは高松町と言いまして函館空港のすぐそばにアパートを借りて住んでおりました。
函館空港を利用されたことがある方は存じ上げているかもしれませんが函館空港より津軽海峡の方に出ますと様々な函館銘菓の広告看板の左側に大きな看板がございます。
そこには、「大間原発大間違い」という文字が大きく書かれておりまして私は毎朝看板のその先に見える大間を想い、なんだか悲しい思いで毎日出勤をしておりました。
ある時、修行先の住職より法事を頼まれあるお宅へ向かった時の話しでございます。
その方のお家の玄関の両脇には、目立つ朱色でそよ風になびく大きな旗が2つありまして旗には「大間原発大反対!」の文字が書かれてありました。
入りたくないな。と思いながらもお邪魔をし滞りなく法事が終わり施主様より供養のお茶を頂いている時のことです。
案の定和尚様はどちらからいらっしゃったの?
と聞かれた私は、何を言われるか分からないと生まれて初めて自らの故郷を話すことができませんでした。
大変情けなく恥ずかしい話しでございます。
決してこの場で原発の良し悪しを話したいわけではございません。
大間には豊かな海や緑深い綺麗な山々があり、とても魅力的で風光明媚な自然に溢れています。
心底美味しい食材に溢れ、大間に住んでいる方々も皆家族のようなものだとおもっております。
しかし、あの時の情けないやら悔しいやら、よく分からない感情は今でもはっきりと覚えております。
こんな想いを子や孫の世代の子らにさせたくない。その一心で生まれ故郷にUターンを決め今行っている様々な活動の原点となっております。
私は人に話す時に決めていることがございます。
実体験以外では人の心を震わすことはできない。と
いうことです。
本を読んで得たどんな素敵な物語も机上で学んだ素晴らしき言葉の数々も、あたかも自分の言葉のように話しても、聞き手の心を震わすことはできません。
実体験こそが人の心を震わすことができるのであれば私が経験してきたことを子供や孫の世代に伝えていかなくてはいけないと日々思い活動をしております。
永平寺の修行中、尊敬する老僧より頂いた、僧侶は人の倍、良いことも辛いことも経験しなさいと言う言葉の通り、日々励んで参りたいと思います。
大間に生まれた子供たちが、心底大間に生まれて良かったと思える町づくりに私が感じてきたことが少しでも大好きな町への恩返しになるのであれば責任を持って伝えて参りたいと思います。
しかし、まだまだ若輩者でございますので皆々様の厳しくも温かいご指導ご鞭撻の程お願い申し上げまて教育委員就任の挨拶に変えさせて頂きます。
院代:菊池 雄大